こんにちは!
ブログまで訪問ありがとうございます!!
ここは主にコミティアで活動中の二人組小説サークル、
Love&ShineのShineこと、水瀬輝(みなせひかる)のブログです。
イベントの参加情報や、新刊既刊案内を主に載せています。
たまにブログ上で小説を上げることもありますが、基本イベント参加で小説を発表してます。
通販も始めまして、お試し読みページも作ってますので、
良ければのぞいてみていってくださいませ。
ツイッター実はやってます(笑) @virtuoso0505
出没率低めですが、こっちよりは多いかと(笑)
今までの創作ジャンルは
『タイムスリップ時代もの』『悩める高校生』『異世界トリップ』『ファンタジー』『ドタバタ学園コメディ』『不良』『片想い』『中高生向けヤングアダルト』
などなど。
書きたいものに飛びついて書いた結果です。
すべて基本はコメディ、ハッピーエンドですので気軽にお手に取っていただけると……!!
プロ目指してますので、感想、ご指摘などいただけるととてもうれしいです!!
最近出版社に投稿しているのは小学校高学年から中高生向けの児童書のジャンルで、
逆にコミティアでは違うタイプを書くことが多いかも。
落っこちたのを改稿してコミティアに出すこともありますので、
徐々に児童書が増えるかもしれません。
こんな感じの自分ですが、今後ともよろしくお願いします!!!
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Love&ShineのShineこと、水瀬輝(みなせひかる)のブログです。
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たまにブログ上で小説を上げることもありますが、基本イベント参加で小説を発表してます。
通販も始めまして、お試し読みページも作ってますので、
良ければのぞいてみていってくださいませ。
通販のページへはこちらから。
お試し読みページへはこちらから。(整備中)
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出没率低めですが、こっちよりは多いかと(笑)
今までの創作ジャンルは
『タイムスリップ時代もの』『悩める高校生』『異世界トリップ』『ファンタジー』『ドタバタ学園コメディ』『不良』『片想い』『中高生向けヤングアダルト』
などなど。
書きたいものに飛びついて書いた結果です。
すべて基本はコメディ、ハッピーエンドですので気軽にお手に取っていただけると……!!
プロ目指してますので、感想、ご指摘などいただけるととてもうれしいです!!
最近出版社に投稿しているのは小学校高学年から中高生向けの児童書のジャンルで、
逆にコミティアでは違うタイプを書くことが多いかも。
落っこちたのを改稿してコミティアに出すこともありますので、
徐々に児童書が増えるかもしれません。
こんな感じの自分ですが、今後ともよろしくお願いします!!!
2015年11月15日
コミティア114
コミティア114開催です!!!
さてはて、会場には行きますがスペース抽選落ちたわれわれLove&Shine。
何もせぬのは物足りぬ、ということで、
いつも書いてます、無配SSと、フリーペーパーをブログに載せてしまおう!!
という企画でございます(笑)
ちなみにガチでいつものように、フリペも一週間くらい前に挨拶書いてたりします、よ。
はい。
ではそれぞれ表紙クリックで、本文に飛びます。
画像に画像のリンクの張り方、こないだ相肩から教わって知ったので、
試し読みページも今後そのような形に変えてゆく予定です。
↓↓フリペ

↓↓無配SS

で、新刊、まあ、二人で仲良く落としました(笑)
がんばってたんですけどねー。
ははははは。
ええ、だからフリペのあいさつ一週間前の記入なんですって(笑)
次にはスペースもらえるといいなあ。
そしたら二冊出しますんで!!
これは絶対。
ではでは、少しでもお楽しみいただけていれば幸いです。
今後ともLove&Shineをよろしくお願いします。
あ、相肩の無配は相肩のブログにありますのでそちらもぜひ~~。
さてはて、会場には行きますがスペース抽選落ちたわれわれLove&Shine。
何もせぬのは物足りぬ、ということで、
いつも書いてます、無配SSと、フリーペーパーをブログに載せてしまおう!!
という企画でございます(笑)
ちなみにガチでいつものように、フリペも一週間くらい前に挨拶書いてたりします、よ。
はい。
ではそれぞれ表紙クリックで、本文に飛びます。
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試し読みページも今後そのような形に変えてゆく予定です。
↓↓フリペ

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で、新刊、まあ、二人で仲良く落としました(笑)
がんばってたんですけどねー。
ははははは。
ええ、だからフリペのあいさつ一週間前の記入なんですって(笑)
次にはスペースもらえるといいなあ。
そしたら二冊出しますんで!!
これは絶対。
ではでは、少しでもお楽しみいただけていれば幸いです。
今後ともLove&Shineをよろしくお願いします。
あ、相肩の無配は相肩のブログにありますのでそちらもぜひ~~。
2011年06月21日
おさなごころ。その4
おさなごころ ep4
『白い月』
立川良次は頭が悪い。並でなく頭が、というより成績が悪い。
記憶力がないのか、とにかく覚えが悪かった。さらに最悪なのが、極度の面倒臭がりの性格だ。理解力もあまりない上に、覚えようという意思がなければ、それはテストもできない。成績も上がらない。ノートはむしろきれいだった。あまり書き込まれていないために。
残暑も過ぎ去り、日が落ちるのが早くなっていると、目に見えてわかるようになってきたころ。日もかたむく教室の中で、良次は居残りをさせられていた。まだ最初のころは他にも人はいたのだが、下校時刻ギリギリまで残されているのは良次だけだった。
良次のクラスは週に一回漢字テストを行う。二十問中十五問できなかった児童は居残りで再テスト。それでも点数が低いものは漢字ノート三ページ練習した後再々テストとなる。
良次は再テストでも半分以下の点数だったため、現在ノートに熟語を五回ずつ書き込んでいるところ、の、はずだった。
「立川、そんなんじゃいつまでたっても帰れねえぞ」
えんぴつを持つ手を止めてぼーっと教室内を見ている良次に、顔をしかめた担任が声をかけた。担任は教師用の机で何か作業をしていたが、ため息をついて立ち上がると、良次の席へと近づいてきた。ちょっぴり腹を気にしている、三十路手前の男の教師だ。
「俺がよ」
どっこいせ、と呟きながら、担任は良次の前の席の椅子に座った。一度開いたセリフの合間が埋められず、何が「俺が」なのか良次は考えたがすぐにわからなかった。わからなかったので、考える事をやめた。同時にえんぴつをノートの上に転がす。
「おいおい、手を休めるな、手を」
担任教師がつつくようにして良次の手元を指差す。良次は間を開けて小さく「はあ」と答えた。
「わからないものはわかりません」
「お前はわかろうとしてないだけだ。てかこれは漢字だぞ? わかるわからないじゃなくて覚えなきゃならねえの」
「‥‥‥はあ」
担任の相手をするのも面倒になった良次は、再びえんぴつを手に取り、ただ同じ単語をくり返し書いた。頭に入ってきている実感はなかった。担任に手元を見られているのが、気になる。
「なんですか」
「字、下手だよなあ」
真正面から指摘されて良次は黙った。読めれば問題ないと思っているが、たまに自分でも読めないことがある。だが、それで困ったことはなかった。
良次が黙々とノートを埋めていくのを担任が組んだひざにひじをつき、頬杖をついて眺めている。しばらくその状態が続いたが、ふと、担任が口を開いた。
「立川は最近幸村と仲が良いのか?」
良次は手を止めた。顔を上げて担任を見る。もののついでに聞いた風を装っているが、何となく、わざわざ近くまで寄ってきた理由はそれだろうとわかった。タイミングを見計らっていた。それもわかった。
「別に」
良次が答えると、担任は呆れた顔をした。わざとらしくひざからひじをすべり落とす。
「おいおい。別にってこたあないだろ。この間廊下で話してるのみかけたぜ? だったらよお、お前ももっとクラス行事に参加しろよな」
「はあ」
何故そんなことを言われなければならないのだろうか。良次は首をかしげる。第一良次は幸村と仲良くなった気はなかった。髪も行動も跳んでいる彼を観察することは、やめてはいなかったが。
クラスメイトである幸村光一郎は良次にとって気になる存在ではあるが、友達といえるほど踏み込んだ関係ではなかった。夏休みにちょっと接触があり、家に押しかけられた。そのとき彼の内面を少しのぞいた気もしたのだが、だからといって彼が変わるわけでもなく、あれからも観察を続けている。
「ったく。先生はお前のこと心配してんだぜ? お前、クラスで何て呼ばれてるか知ってるか?」
「さあ‥‥‥」
自分などにあだ名があるとは知らなかった。純粋に少し驚いたが、担任はため息をついただけだった。
「昼寝ロボット」
眉根を寄せて黙り込む。なんと無駄なロボットだろうか。
「幸村も心配してんじゃねえか? わざわざ暑中見舞いだすって住所聞きにきたんだぜ」
「ああ‥‥‥」
これで一つ謎が解けた。教えた覚えのない家の場所を何故幸村が知っていたのか。当然、暑中見舞いは届いていない。
「まあ、幸村も幸村で問題っつか、色々あるしなあ」
「色々、なんですか?」
思わず振り返ってたずねると、担任は驚いたような、それでいてうれしそうな顔をした。
「お、食いつくな」
「いえ」
視線をそらして首を振るが、ここ半年ほどの観察対象だ。気になるのは間違いない。
「先生もコーラが見えたんですか?」
「コーラ?」
担任は首をかしげた。良次は説明しようとして、言葉に詰まった。コーラの実験がなんと言ったか思い出せなかった。めんどくさいカタカナだったことしか覚えていない。
考え込んだ良次を見て、担任は怪訝そうな顔をしたが、話を続ける。
「よくわかんねえけど。あいつ笑ってても、本当に楽しそうに笑ってるときってあんまないだろ?」
良次は担任を見つめた。自分の感じている違和感を、的確に他人に指摘されて驚いた。それから、わけもわからず悔しく感じる。
「まったく笑わねえお前も問題だけど、あいつはあいつで、ちっとな。心配だよ」
良次は担任の話を聞きたくなくて、ノートに向かった。再び漢字を繰り返し埋めていく。
「だけどこの間、廊下でお前と話してるとき、幸村は、本気で笑ってたんだ」
「え‥‥‥?」
良次が顔を上げると、担任は苦笑した。
「こんなんお前に言うのもなんかなあと思うけどさ。幸村のこと、見てやっててくれよ」
良次は顔をしかめた。本当に、担任が言う話ではない。言われなくとも、良次は幸村を見ているのだから。
良次は軽く担任をにらんで、再びノートに向かった。
合格がもらえる前に、完全下校の時間になってしまった。
担任は頭を抱えてため息をついて、明日また再テストするからその分の練習もしてこいと宿題を増やした。良次はノートとふでばこをランドセルに突っ込むと、すばやく教室を出た。昨日までどうとも思っていなかった担任が、なんとなく、気に食わなかった。なぜかわからない自分に、心がざわめいて気が急いた。
廊下を歩いて階段に差し掛かったとき、物音が聞こえて良次は振り返った。屋上へと続く階段の先の踊り場のほうだ。良次は思わず立ち止まり、薄暗い踊り場を見上げた。普段は立ち入り禁止となっているはずだ。
その踊り場は、運動会などで使われた、玉入れのかごや大玉などが置かれている雑多な物置となっていた。屋上に出るドアは頑丈な南京錠で施錠されているため出られない。だが、踊り場に住み着く幽霊が、仲間を呼ぼうと自殺を誘っているときだけは開かれているといううわさがある。よくある七不思議のひとつだ。
しかし今、その踊り場で物音がした。良次は気になって低いロープをまたぐ。階段を上りきり、踊り場に立つが、特に何もない。三年前、六年生だった兄の良一と、一年生だった弟の純也と三人で来たことがあったが、そのころからもほとんど変わっていないように思える。もちろん、幽霊もいない。
そう、思ったとき、ふと、ドアの鍵に気がついた。錠が、はずされている。良次も思わず息を飲んだ。幽霊はいないと思ったのに。
ガタッとドアが音を立てた。思わず良次は半歩後ずさる。そのままギシギシと音を立てながら、ドアが開いた。
「あ、開いた。‥‥‥ん? 良次じゃん」
「幸村」
屋上から幸村が出てきた。一瞬ほっとするが、七不思議を思い出す。幽霊は南京錠をあけて自殺者を待つというのだ。幸村はぴったりじゃないだろうか。
「こんなとこに、どうしたの」
「音が、したから」
「ああ。それが建てつけ悪くてさぁ。今度油でも持ってこなきゃだめかな」
幸村は七不思議など知らないようなそぶりで、ドアを閉めると淡々と錠をかける。良次は幸村を観察した。
「何、良次は今まで居残りだったの?」
「‥‥‥ああ」
幸村は手を軽く打ち払うと階段を下り始めた。良次もなんとなくそれを追う。
「良次、漢字覚えんのへただよねー。覚え方とか、工夫するといいよ。ほら、競争の競とか、立って兄ちゃんたちが走る、みたいな」
「‥‥‥なんか、純也みたいだな」
「んん? あ、たしか、お前兄ちゃんもいるんだっけ。ほんとだー! 純也くんから見たら、立川の兄二人が競争するぜって感じ!」
幸村は一人で納得して腹を抱えて笑う。だが、良次が言ったのは漢字の話ではなく、幸村の覚え方を工夫するというアドバイスに関しての話だ。純也が前にそう言っていたのを思い出したのだ。しかし、説明する気はない。
良次は担任が言っていた、笑いのことを考えた。今、幸村は笑っている。つぼに入ったという笑い方で、いまいち違いがわからなかった。
「お前、何で屋上にいたんだ」
「ん? ああ、七不思議気にしてる? 関係ないよー、あんなの」
幸村は笑いながら、手を振った。一応知ってはいたらしい。どうやってあけたのかたずねると、幸村はポケットから鍵を取り出して掲げて見せた。
「盗んだのか」
「うん。めったにってか、まず使わない鍵だからね。もう一年以上経つけど、未だにばれてないよ」
幸村はすばやくポケットにしまう。
「あ、良次だから心配してないけど誰にも」
「言わない」
「だよな」
幸村は笑った。何故かどきりとした。わけがわからなくて眉根を寄せる。
「屋上で何をしてたんだ」
話を変える、というより元に戻すと、幸村はまた笑った。今度はいつもの影の見え隠れする笑い方だ。
いつの間にか二人は昇降口に来ていた。上履きから靴に履き替えて、屋根の下から出ると、夕焼けは最も濃い時間に差し掛かっていた。東のほうはもう、うっすら紫がかっている。
「星を見てた」
空を見上げた幸村が唐突に言った。時間がかかったが、先ほどの問いの答えだとわかる。
「あと、月。薄い、白い月。もうそろそろ色を変えるね」
つられて見上げると、西のほうに、細い三日月が浮いている。
成り行きで、二人は一緒に校門まで向かう。当然のように幸村は同じ角で曲がった。家は近いのだろうかと考える。
「知ってる? 一番星って金星なんだ」
良次はほとんどしゃべらない。幸村が一人でしゃべる。
「でもおれは一番星って嫌いなんだ。だってあいつ、強いだろ。一番に光りだしてさ。おれは昼間の月が好きなんだ。薄くてさ、白くてさ」
良次にはわからない感覚だった。良次にとってはいつどこでどういう風にあろうとも、月は月で、星は星でしかない。金星や火星の区別もない。
「パキッて割れちゃいそうなとこがいいんだ。おれも、そうだったらって思う」
やはり、よくわからない。そう思って眉根を寄せていると、幸村は笑った。
「それでいいんだよ、良次は。わからなくても、おれがそう思ってるって知ってくれてるんだから。お前だけだよ。おれがこういう奴だって知ってんの」
幸村は両腕を挙げて伸びをする。おろす反動でぴょんと前に跳んだ。良次は跳ねた髪を見ながら顔をしかめる。
自分だけ。確かに幸村が死にたいと考えているのを知っているのは良次だけだろう。けれど、幸村が外面どおりのやつではないと気づいている人間はいる。担任だ。
良次はそのことを知らせようかと迷っていると、不意に幸村が振り返った。
「こんな話できんの、良次だけだし」
振り返って、幸村が笑う。どきりとした。鼓動は直ぐには引かず、少し長引く。何が何だかわからなかった。もし担任が気づいていると幸村に教えたら、幸村は彼にも話すのだろうか。想像して、良次は口を閉ざす。いやだった。そうだ。自分だけの観察対象ではなくなってしまう。それがいやなのだ。
気づくと良次の家の前だった。幸村は「じゃっ」と片手を挙げると、駆け足で去っていく。それを見送ったあと、良次は空を見上げた。茜色だった空はじわじわと紫に侵食されている。
屋上でわざわざ一人空を見上げる。そんな自分を想像しようとして、できなかった。
2010年09月05日
ネコと紙飛行機
ネコと紙飛行機
玄関先に怒鳴り声が響いた。後に聞いた話では表までしっかり聞こえていたそうだ。その母親の声、言葉は、キーンと耳を突き刺したと同時に、少し心をえぐった。
あれは小学五年生のときの話だ。
学校からの帰り道、おれは電柱の下に捨てられている猫を見つけた。
ダンボールに「拾ってください」と、お決まりのセリフ。目にした瞬間、おれは捨てた奴に対する怒りでいっぱいになった。
けれど、よく中を覗いて気が抜けた。
そこには子ネコが一匹いて、ぽかぽかと日が当たって気持ちがいいのか、毛布の上で丸くなって眠っていたのだ。
ふにゃんと、それはそれは心地よさそうに。
おれは思わず見入ってしまった。細められた目が、毛布に擦り付けて寄っている顔のしわが、言葉にできないほどものすごくかわいいかった。
おれはしゃがみこんでそっと身体をなでた。
柔らかくて温かい。
子ネコがちっとも起きないので、おれは夢中になって撫で回していたが、はっと気づいて周囲を見回した。人が居ないことを確認できておれはほっと胸をなでおろす。ネコと遊んでいるところなんて見られたら、きっとからかわれるだろうからだ。
頭の中で、昼休みに言われた女子の言葉が浮かんできた。
「なにそれ、まさあきくん似合わなーい」
思い出してまた腹が立った。勝手にイメージを押し付けてくるなと、その場で言ってやればよかった。けれど子ネコを見ると頬が緩んだ。
こんな風に、周りなんて関係ないって、なれればいいのにと思う。
再び子ネコをなでながら、しかし、と、ふと気付いた。
こいつはもしかして、まだ捨てられたことにも気付いていないんじゃないだろうか。もしそうだとしたら何てひどい話だろう。
弱まってきていた捨てた人間への怒りが、今度は子ネコが幸せそうに見えるほど強まった。
おれはダンボールから子ネコを抱き上げた。その拍子に目を覚ます。「ふにゃ」と鳴きながら、目を開けた。
目が合った。胸がきゅっとしまった。
「おれが育てるから」
おれはジャンバーの中に子ネコを隠して、走って家に帰った。
わかってはいたのだ。うちがペット禁止だということは。アパート自体は禁止ではなかったが、親の商売の都合だった。
でもそんなのは子供には関係ないじゃないか。おれはそのときそう思っていたし、ベランダ下の隙間に隠すか、あわよくば押して押して押しまくって、親をやり込めようと思っていた。
けれど見つかるのはあっけなかった。母親と弟妹たちが買い物に出かけていたのは良かったが、その間にネコを隠せるような箱を見つけることができなかったのだ。ジャンバーの中でまた眠ってしまった子ネコは横断バックの中にジャンバーごと入れて玄関先に寝かせておいた。それが悪かった。
運悪く帰ってきた母親と弟妹たちに見つけられてしまったのだ。
おれは母親に怒られるし、小学二年の弟と幼稚園年長の妹には、おれが拾って来たのにもかかわらず、おれより先にネコと遊ばれるし、踏んだりけったりだった。『ミー』とか勝手に名付けるし。まあ、かわいいけど。
「あんたお兄ちゃんでしょう!? いい加減に考えてから行動しなさい!」
「なんだよそれ! 関係ないじゃん!」
「うちがペットだめなのわかってるでしょ。飼えないのよ。ほんっとうに飼えないの。拾ったらどうしたって情がわくでしょう。かわいいでしょう。でも飼えないの。手放さなきゃいけないのよ」
「何それ‥‥‥。捨ててこいって言うの?」
母親は黙った。つまりはそういうことなのだ。おれは悔しくて泣きそうになったが、飼えないのだとわかった弟妹たちの反応の方がすさまじかった。
「なんで!? なんでミー飼えないの!?」
「こんなにかわいいのに! ちっちゃいのに! ナナでもだっこできるのに!」
「いやだー! 飼う絶対飼う!」
「すてちゃやだー」
泣いて、わめいて、母親にすがり付いて暴れて、妹が子ネコを離さんとぎゅうっと抱きしめるものだから、苦しがって子ネコも鳴いた。おれはあわてて妹から子ネコを離そうとしたが余計力を強めるので「ミーが死んじゃう!」と叫ぶと、子ネコは救出できたが今度は「死ぬ」という言葉にびっくりした妹が、さらに泣き出した。
「馬鹿!」
母親は妹の火に油を注いだおれを怒鳴りつけてから、二人をなだめに入った。おれは子ネコを胸に抱いて三人からよけながら本当に泣きそうだった。
「ナナ、子ネコは死なない、死なないから大丈夫」
「子ネコじゃない。ミー」
「ミーちゃんは死なない」
母親はため息をつきながら、二人の頭をなでた。
「あっちゃん、お父さんのお仕事何だかわかるよね」
「ハンバーグやさん‥‥‥」
「ハンバーグはどうやって作るかわかる? この間一緒に作ったよね」
「お肉をコネコネする‥‥‥」
「コネコネはどうやってやるんだっけ?」
「銀色の、丸いボールの中で、手で、コネコネする」
「そうだよね。手でコネコネするよね。そしたらその手にもし子ネコの毛がついてたらどうなる?」
「ハンバーグに毛が入るんだろ! でもそんなのお父さんが気をつけたらいいだけじゃん!」
「雅章!」
回りくどい母親の話を奪うと、母親はおれを怒鳴りつけた。お決まりのセリフが続く。
「お兄ちゃんがわがまま言わないの!」
これは、兄だから怒られるのか?
「二人にはまだ理解できなくても、お兄ちゃんならわかるでしょう。気をつけたらいいというだけの問題じゃないの。ネコを飼ってる。それだけで、もしかしたらこのハンバーグの中に毛が入っているかもしれない。そう思われるかもしれない。そしたらお客さんはこなくなる。困るでしょう」
「わかんないよ! かもしれないかもしれないって、何だよ!」
「そういうものなのよ! 髪の毛でさえかなりの気を使うのよ? 知ってる? お父さん手元の毛も剃ってるのよ? それなのに飼えるわけがないでしょう」
「でも別に、お店で飼うわけじゃないのに」
「配れる気は、できる限り配るものなの」
「でもそんなの、こいつには関係ないじゃん!」
母親が、顔をゆがめた。
「お兄ちゃん!」
また。
「お兄ちゃんがわかってくれなきゃ、あっちゃんやナナがあきらめられないでしょう。うちでは飼えないんだってちゃんとわからないでしょう」
おれは弟妹たちを振り返った。二人は涙を溜めた目で、おれを見ていた。
本当は、母親の言うことは半分以上理解していた。そういうもの、というのも漠然と感じていた。食べ物商売、とくに手で直接触れるものだから、気を使うのも余計だろう。頭の上では納得できなくても、ダメなのだという事実は、感覚で、どこか肌で分かっていた部分はあった。
でも、それでもという期待はあった。ペットショップで飼いたいと騒ぐわけではない。だって、捨てられていたのだ。それを無視して良い訳がない。
「‥‥‥夜はまーちゃんたちがいるけど、昼間は誰もお世話できないでしょう? お母さんが、近所で飼ってくれそうなところを回ってくるから。ね?」
おれは黙って母親に子ネコを託した。弟妹たちがわっと泣き出す。おれは口をかみながら弟と妹の背中を叩いた。泣くなよ、おれだった泣きたいのに。
「じゃあお留守番よろしくね。買ったもの、冷蔵庫に入れといて」
母親の胸に抱かれて、子ネコは家を出て行った。最後に「ミィ」と鳴いた声が悲しげに聞こえたのは、おれの気のせいだろうか。箱の中ではすやすや眠っていたくせに。
ネコも、おれも、周りのせいで理不尽なことばかりだ。
母親は西条という家に渡してきたといった。
おれと同学年の子供がいて、言われてみればそんな名前の金持ちのやつがいると聞いたことがあった。近所じゃなかったはずだと思ったら、なんでもその西条に道端で会って、向こうから声をかけてきたとか。そのままそいつの親と話すために家まで行ったというが、さすがの豪邸だった、とか。母親の話は少し大げさだ。でも、そのままどこかに捨てられなくて本当に良かった。ちょっぴりやっぱり悔しかったけれど。
次の日の朝、おれはまだ少しぐずっている弟と一緒に学校へ向かっていた。途中で子ネコを拾った電柱を通るが、ダンボールはもうなかった。おれは置いて帰ってしまったはずだけれど、誰かが捨てたのだろうか。邪魔だから? 子ネコが入っていたら、その人はちゃんと拾ってくれただろうか。
と、別に何もない道端だった。弟の手を引いて歩いていたおれの後頭部に、何かがこつんとぶつかった。ぶつかるというより刺さるに近くて、おれは一瞬の痛みに顔をしかめながらも、後ろを振り返った。誰もいない。いや、誰かはいたけれど、誰がやったのかは分からない。反射的に足元に目をやって、自分の頭に何が直撃したのかを知る。
紙飛行機だった。
おれは首をひねりながらその紙飛行機を拾った。真っ白な紙に、開くと文字が書いてあった。
『ミーはもらった』
おれはあわてて辺りを見回すが、やっぱりそれらしい人はいない。でも、誰かって言ったら、西条ってやつしかいないだろう。
ただの報告なのか、挑発なのか、よくわからなかった。なぜ紙飛行機で、しかもおれの頭を狙うのか。一体どんな奴なのか、想像がつかなかった。
朝は遅刻ギリギリになってしまい、一時間目が終わったら即行で西条に会いに行こうと考えていた。その前に、誰かに西条のクラスを知っているか聞かなければならない。そんなことを考えていたら、朝の会で配られたプリントを、いつの間にか飛行機にしていた。見つかって先生に怒られたが、別の教室から怒鳴り声が聞こえてきた。
「西条くん! 何やってるの!?」
え? と思うと同時に、教室の窓の横を、白い紙飛行機、茶色い紙飛行機が飛んで行った。クラスのみんなが窓の外を見てざわめいた。先生も呆然とする。
「西条くん! 西条貴之くん!」
西条は、貴之というのか。おれが窓に駆け出すときには、他のクラスメイトも駆け出していた。先生があわてたように注意するが、ちっとも間に合わない。
飛ばしている数がハンパじゃない。しかも、すごく長く良く飛んでいる。
窓から顔を出すと、隣の教室の窓から腕が伸びていた。おそらく、西条貴之の手。
「先生、おれは実験中です。邪魔しないで下さい」
当然のようにいう貴之の言葉に、おれはびっくりした。こいつは、一体どんな奴か。ちょっぴりミーのことが心配になる。
クラスの一人が腕を伸ばして紙飛行機を一機掴んだ。そいつは後で先生にものすごく怒られたが、このときは、先生も沢山飛ぶ紙飛行機にびっくりしっぱなしで、注意を払っていなかった。
「何か書いてあるぜ! んー? ミーは‥‥‥せろ?」
おれはミーと聞いてクラスメイトから紙飛行機を奪った。クラスメイトが読めなかった漢字は、確か、「任せろ」だった。
おれは笑った。こんなおおがかりにメッセージを載せるか?
でも、何かうれしかった。何より面白かった。
おれは紙飛行機が飛ぶ外に向かって「任せた!」と叫んだ。
当然先生に怒られて、おれは何も言い返せなかったけれど、西条と話をするのが楽しみになった。
小学五年生のときの話だ。
2010年02月14日
情の展望 凝固
情の展望 凝固
ちょうど一年前の話だ。
二月に突入して少ししたころだった。この時期、凌明(りょうめい)の経営する店は格段に忙しくなる。何せ洋菓子店だ。十二月のクリスマスと二月のバレンタインは稼ぎ時だった。凌明はチョコレート菓子に普段から力を入れている。そのため二月は余計に力が入ってしまうのだろう。店内の装いも、そのときすでにバレンタイン仕様になっていた。
普段はあまり調理場からでない凌明が、ふとそこに目を向けたのは偶然だった。
店のショウウィンドウの向こう。張り付くようにして道端に座り込み、そこに置かれたお菓子を凝視している青年がいた。
中に入ってくれば良いのに。何故、店のものも声をかけないのだろう。そこでは通行の邪魔にもなる。
凌明は彼の真剣な眼差しに惹かれるものを覚え、自ら店を出て青年に声をかけた。青年は店から凌明が出てきたことにも気づかなかったようで、びっくりした顔で見上げてきた。
その瞳が青かったので、少し驚く。よく見ればコンタクトだった。
「あの、よかったら中にどうぞ」
少しかがんで慣れない笑顔で促すが、青年はちらりと店内に視線を振ると、苦笑を浮かべて首を振った。
「いや、この店の人、あなた以外には俺のこと見えてないから。変な目で見られますよ」
意味は理解できなかったが、思わず店内に目を向けると、レジの向こうにいる女の子二人が、ひそひそと喋りながらこちらをうかがっていた。
「おばけ?」
視線を戻して尋ねると、青年はぷはっとふきだした。
「人間だけどね」
そういって笑いながら彼が話したのは、簡単には信じられない話だった。
ときと名乗った彼は、恨みを抱いている者にしか姿が見えないのだという。ときの側からは恨みの感情が黒いもやのような形で見えるようで、それがどんな類の恨みか、その方向性、どんな人物に向けられているのかなども見えるらしい。
簡単には信じられないが、恨みと聞いて浮かぶことがあった凌明は、簡単に否定もできなかった。
「まあでも。とりあえず通行の邪魔だから、そっからはどこうよ」
凌明が言うと、ときは再びショウウィンドウに視線を向けた。その先にある冷蔵機能のついたショウケースに入っているのは、トリュフだ。ココアパウダーのかかった、ころころと丸い。バレンタインでは特に人気がある。
「食べたいんですか?」
「あ、いや、そうじゃなくて・・・・・・。まあ、食べたいのもあるんですけど」
ときが頭をかきながら視線を彷徨わせる。その照れたような、気恥ずかしげな様子が少しおかしくて笑ってしまった。初対面の人物を笑うなんて、失礼だろうけれど。
バレンタインにもらいたいのか、食べたいけれど今の時期、買うのは気が引けるのか。
「試食します?」
「え、いいんですか?」
ときの顔がぱあっと輝いた。やはり食べたかったらしい。凌明が苦笑を浮かべると、はっと気づいたときが、顔を赤くした。
「う、すんません。でも、お願いします」
頭を下げるときに、凌明は自然と笑みを浮かべた。
凌明が店の中に戻ると、先ほどひそひそと話していた女の子達が、恐る恐る声をかけてきた。
「あの、店長。どうしたんですか? 何かあったんですか?」
あれだけ目立って張り付いていたのに、本当に彼女達には見えていなかったらしい。凌明は少し驚いて目を見張った。
「・・・・・・本当に、見えなかったんだ」
思わず呟いてしまった言葉に、女の子達が「え」と呟いて固まった。しまったと思った凌明は、今知ったような、とぼけた態度を装った。首をひねって見せる。
「おかしーな。俺、霊感なんてあったっけ?」
女の子達は「きゃーっ」と悲鳴を上げた。一人が「時期がちがーう」といい、「そういう問題じゃないでしょ」ともう一人に肩を叩かれた。
凌明は苦笑する。続けてたった今でっち上げた話を口にした。
「でも、小さい子だったよ。もうどっかいっちゃったけど。おいしそうだねって、言ってくれた」
女の子達は顔を見合わせる。そしてにっこりと笑った。
「なら、あげればよかったですねー」
素直な女の子達に凌明も笑ってうなずいた。
あたたかい職場だ。今、自分は周りの人間に恵まれている。だというのに、自分はまだ忘れていなかった。恨み、といわれて浮かんだ顔。
「じゃ、お昼行ってくるから、君たちも適当に交代して頼むね」
「はーい」
彼女達が声をそろえて返事をする。凌明は調理場に戻り、先ほど作り足して店のショウケースに入りきらなかった分のトリュフを小箱に移した。コック服を着替え、コートを羽織ると、小箱を持って店の裏口から外へ出る。
ときと待ち合わせをした公園へと向かった。
ときは凌明の持ってきたトリュフをすぐには食べなかった。ふたを開けてじっと見ているのでどうかしたのかと尋ねると、ときは少しうつむきがちにぽつぽつと話し出した。
「俺、いつも誰か見える人に世話になって生きてるんだけど、今世話になってる人、もうすぐ恨み晴れそうで。たぶん俺のこと、もうじき見えなくなる。
もうすぐバレンタインでしょ。逆チョコって言うの? ギリギリかもしれないけど、あげたいなーって思ってさ」
しかし、さすがに一週間以上それを食べずにおくのはできないだろう。作り手としても責任があるので凌明がそう言うと、ときも「うん」とうなずいた。
そうしてようやく口に運ぶ。少し暗かったときの表情が、舌に溶けたであろう瞬間緩んだ。凌明の顔もほころぶ。
「あの、お願いが、あるんですが」
入れた三つ全てを食べ終えた後、ときは膝をそろえて改まった表情で凌明を見つめてきた。凌明は促すように首をかしげる。
「俺にこれの作り方教えて欲しい。材料費とか、俺、こんなんだから使いにくいとは思うけど、何か仕事させて。俺、普通じゃ働けないから、金がないんだ」
必死な表情に、真剣な目に、凌明はうなずいた。
「雑用くらいしかないけど」
「うんうん。荷物運びでも皿洗いでもなんでもする。だからお願いします」
勢い良く首をたてに振るときに、凌明は苦笑した。
「わかったよ」
しばらく、面白い日が続きそうだ。
ときは一週間、凌明の店に出入りした。本当に他のものに見えないだけで、不器用というわけでもないし、これなら大丈夫だろうと思った。若干体力がなかったので、小麦粉の袋などを持たせることはできなかったが。
給料は約束どおり、材料費と講習代ということで十四日の朝、店でトリュフの作り方を教えた。一つ食べたがだまもなくかなり上手くできていた。
果たして渡せたのだろうかと思いながら、忙しかった一日を終えて家へと帰る途中、凌明は最初の日に話をした公園でときを見つけた。
ここにいるということは渡せなかったのだろうか。凌明が不安に思いながらベンチにぼんやりと座る彼に近付くと、かたわらに赤い包装紙と小箱があった。彼が包んだものではない。
ときは凌明に気づくと、ゆるく笑った。
それからゆっくりと経緯を話してくれた。
ときは世話になっているという彼女のアパートで、出かけた彼女の帰りを待っていた。夕方頃帰ってきたが、朝はかろうじて見えていた彼女は、もう、ときのことは見えなくなっていた。
「嬉しかった、けど」
彼女は自分がときの姿が見えていないとは気づかずに、ときの分も夕食の支度をして、ときの帰りを待っていた。ときはその間に手紙をかいた。声は届かなくても、紙そのものは彼の手から離れれば、物としては普通に認識できる。だが、そこにあると気付かれるかどうかは、わからないのだそうだ。
置いて、部屋を出ようとした瞬間、さすがに帰ってこないときをいぶかしんだのか、彼女が名前を呼んだ。ときは一瞬ためらった。けれど、もう、彼女と一緒にいることはできない。同居している中で何度かあったため、背後で彼女が足をミニテーブルに引っ掛けるのがわかったが、ときは振り切って、部屋を出てきた。
「彼女ね、俺にチョコ用意してくれてたんだ。絶対ないと思ったのに。ま、コンビニっぽいけど。だからそれはもらって、ちゃんと、トリュフも手紙と一緒においてきた。気づいてくれると、いいけど」
ふうと息をついて、ときは一瞬白く濁る虚空をまたぼんやりと見つめた。
「うち、来る?」
凌明が少し痛々しいときの姿に尋ねると、ときは首を横に振った。
「ありがと。でもちょっとそんな気分じゃないや。一人で、いたい・・・・・・」
頑なな様子に、これはいっても気かなそうだと凌明は思った。彼女とどういう関係であったかは深く尋ねていないが、別れはつらいのだろう。
寒かったが、着ていたコートをときに渡して、凌明はその日走って帰った。
翌日の朝、公園をのぞいてみると、凌明の渡したコートをかぶってはいたが、昨日のままぼうっとしていた。まさか一晩中あそこにいたのだろうかと不安になるが、まだ声のかけられるようすではなかった。
夜再び立ち寄ると、ときは倒れていた。驚いて抱き起こすと熱を出しているようだった。さすがにほっておけるわけもなく、意識のない彼を、凌明は担いで連れ帰った。
医者に連れて行くことは彼の話を聞く限りできなさそうであるし、朦朧としている彼にとりあえず家にあった熱さましを飲ませて、凌明は様子を見た。眠る彼を見つめる。
自分が見えなくなったことを、ときは嬉しいといった。嬉しいことと悲しいことが一緒に起こる。似たような過去が自分にもあったなと、凌明はぼんやり昔を思い出した。
ときはその後、風邪が完治するまで凌明の家にいたが、治るとすぐに出て行ってしまった。彼女のところで同居していたように、好きにいてくれても構わないといったのだが、ときは首を横に振った。
「俺があなたにできることは何もないから。あなたの中であなたの恨みはちゃんと整理されている。後はもう、癒すしかないところまで来ている。それは俺にはできないから。できるのは、これから先、ずっとあなたと一緒にいることのできる人だけ」
「恋人を探せって? そう簡単にできたら苦労しない」
「ま、そりゃそうかもしれないけどね。俺はあなたの恋人にはなれない」
なって欲しいといった覚えはなかったが。
「俺は、あなたの恨みが晴らされる日が来るのを祈ってるよ」
それから彼がどこへ行ったのか、凌明は知らなかった。
夕食を買いに立ち寄ったコンビニで、偶然料理雑誌の表紙を飾るトリュフを目にした凌明は、一年前のことを思い出していた。
ときの言った、癒されるのを待つ自分の恨み。それは二十年前、小学生のころのいじめに起因している。
実家が元々洋菓子店だった凌明は、昔からお菓子作りが好きだった。けれど、甘いにおいをさせている凌明を、当時のクラスメイトは「女子みたいだ」「気色わるい」と言ってからかった。長く続いたわけではなかったが、凌明の心に深く傷を残した。はじめにときから『恨み』という言葉を聞いたときに浮かんだのは、そのクラスメイトだった。
お菓子を作るのをいやになった時期もあった。けれど結局自分はこの道を選んだ。辛くても、やはり好きだったから。あの時自分をからかっていじめたあのクラスメイトがいなかったら、今、自分は店を構えるまでにはなっていないだろう。そうやって、とき曰くの『整理』をしていた。けれどそれは恨みを晴らすこととは違う。逆に恨みを恨みとして心に住まわせることで、飼いならしてきただけの話だ。
「あの、その本いいですか?」
「あ、すいません」
長いことぼんやりとしていた凌明は、すぐ隣に人が来ていることに気づかなかった。目の前の料理雑誌に手を伸ばす女性に、少し体をずらした。
「あ」
女性がふと呟いて凌明を見上げてきた。唐突なことに何かと首をかしげると、女性はにっこりと微笑んだ。
「甘くていい匂いがしますね。パティシエの方ですか?」
凌明は「いい匂い」という言葉に、図らずも胸がどきりとした。思い出していた過去が過去だっただけに、彼女の笑顔は輝いて見えた。
凌明も笑みを浮かべる。
「ええ。何でしたらそれの作り方お教えしましょうか?」
尋ねると、彼女は驚いたように目を見張った。さすがに強引かと思い、笑みは苦笑に変わった。
「ちょうど一年前も、ちょっとした縁で、人に教えたんことがあったんです」
「わたしも、一年前、人から貰ったのを思い出したので――」
2009年12月11日
おさなごころ。その3
おさなごころ ep3
『夏の日/後編』
休みの日は起きるのが遅い。夏休みであれば大抵昼過ぎまで寝ている。姉に連れられた買い物先で幸村光一郎(ゆきむらこういちろう)と偶然会った翌日も、立川良次(たつかわりょうじ)は寝られるだけ寝ているつもりだった。けれどゲームの連射かというぐらいに鳴り響いたインターホンに、さすがの良次もたたき起こされた。
誰かが出たらしく、音はすぐに鳴り止んだ。時計を見るとまだ十時。良次にとっては『まだ』十時だった。
そのまま布団をかぶろうとするが、弟の純也(じゅんや)が部屋にやってきて叶わなかった。
「兄ちゃん、お客さん」
「誰だ。姉貴はいないのか」
「じゃなくて、兄ちゃんに」
「おれに?」
家に来るような相手は思い浮かばなかった。しいて言うなら学校の担任ぐらいだ。
「昨日の人だよ。リビングにいてもらってるけど、部屋に上がってもらう?」
「昨日って、幸村か」
「うん。昨日会った人。仲直り、した?」
良次は眉根を寄せた。仲直りなどしていない。そもそもケンカしたとも思っていない。何かが幸村の怒りに触れたのはわかったが、何が触れたのかも、何故大声で馬鹿といわれたのかという理由もわからなかった。
彼の言動は、わからないものが多い。教えていないはずのこの家にどうやってきたのかも謎だ。
「下にいく」
「おれいないほうがいい?」
「・・・・・・別に」
「わかった。部屋にいるね」
純也は心得たように笑ってうなずく。良次があいまいに返しても、いつも本当に望んでいることを察するのだ。良次は弟のそんなところが素直にすごいと思っている。
純也は自分のランドセルから練習帳を取り出すと、机に向かい始めた。この部屋は二人の共有だ。姉と兄には一部屋ずつ与えられている。二人も良次が中学に上がったら一人ひとりの部屋になる予定だ。
良次は着替えようと布団を出たが、今着ているものも短パンにティーシャツで、これから着替えるものも短パンにティーシャツであることを考えると、面倒臭くなってやめた。
あくびをこぼしながら部屋を出ようとしたとき、「仲直りしなよ」と純也に言われて、良次は首をかしげた。何故そこにこだわるのだろうかというのと、直す仲があるように見えたのだろうかという疑問が浮かんだ。
リビングに入る前に一応洗面台で顔だけは洗った。ドアを開けて一番に、ソファの背から生えている跳ねた頭が見える。くるりとその頭が回転した。
「あ、良次。おっす。もしかしておはよう?」
「ああ」
「おはよー」
ソファは入り口とダイニングを背にして二人がけのものがL字型に置かれている。囲まれるようにしてローテーブルがあり、その向こうの壁側にテレビがおいてある。ゲームをする時は床に座る。
良次ももう一方のソファに座ろうとして、テーブルの上に置かれたコップに気がついた。純也が幸村に出したのだろう。中の麦茶が三分の一まで減っていた。
良次ものどに渇きを覚え、ダイニングと繋がるキッチンに麦茶とコップを取りに行く。
ソファに座り、麦茶を一杯飲んで、幸村のコップにも注ぎ足した。
「あ、ありがと」
「で」
「で?」
コップを手に持った幸村が首をかしげる。自分の家に他人がいることに違和感を覚えるが、その相手が幸村であることにはあまり違和感はなかった。
「何しにきたんだ」
幸村が顔をうつむかせて、コップをテーブルに戻した。
「謝りにきた」
「謝りに?」
意味がわからず、良次はおうむ返しに尋ねてしまった。幸村はうつむいたままこくりとうなずく。その跳ねた髪のごとく、幸村の話はどこへ行くのかわからなかった。
昨日怒っていたのは幸村だった。怒らせたのは自分だ。なのに何故、幸村が謝りに来るのかわからない。しかも、朝早くにインターホンを連打して。
「昨日、言いすぎてごめん」
良次は黙った。正確には何を返していいのかわからなかった。基本的に、会話は苦手なのだ。
窓は閉めきって冷房をかけているため、リビングは静かだった。ふとした拍子に時計の音が耳に入ってくると、中々離れなかった。
「・・・・・・昨日怒ってたのはお前だよな」
良次がようやくかけた声に、幸村は顔を上げた。再びこくりとうなずく。
昨日の怒りっぷりと、今日の落ち込みっぷりが結びつかない。怒った理由もわからないが、謝る理由もわからない。かといって、自分が謝るというのもおかしいと思っていた。
「何で怒ったんだ?」
幸村は再びうつむく。しばらくして、手を伸ばしてコップを取った。顔を上げずに、すするように麦茶を飲む。観察していて、良次は鳥みたいだと思った。
「・・・・・・うらやましくて」
「何が」
「兄弟。なんか、良次はずるいなあって。だから、怒ったけど、ほんとは逆恨み」
見上げるように、幸村は上目遣いで良次を見てきた。良次はしばらく眺めた後、「・・・・・・わからない」と呟きながらダイニングに首を巡らせた。
「ひど・・・・・・」
幸村の非難の声に、良次は視線だけを戻す。ソファの背もたれに腕を乗せてよりかかった。
「わからない。おれはお前じゃない。そもそも何故、わからなきゃいけない?」
「うん?」
「気になるといえば確かに気になる。だけど、何を思おうと、そいつの勝手だ。その、『さかうらみ』をしたとしても、本人の勝手だろ。何で謝るんだ」
「でも、傷ついたり、しない?」
「しない」
「じゃあ、怒りもしなかったの? 馬鹿って言われて?」
のぞきこむようにして問われて、良次は昨日の情景を思い出した。少しむっとしたが、怒るというより、疑問の方が大きかった。
「別に。それに、幸村が何を思おうが、何を言おうが、幸村に変わりはないし」
「自分には関係ない?」
「ああ」
「・・・・・・そっか」
幸村は再びうつむいて、麦茶をすすった。一口だけで今度はすぐに顔を上げる。
「でもそれなら、おれが悪いって思ったんだから、ごめんって言うのもいいよな」
聞かれて、良次は眉根を寄せた。確かにそうだ。そこまでは気づいていなかった。
「そうだな」
「うん。昨日はごめん」
幸村はまた頭を下げた。良次は少し、居心地が悪かった。
再び沈黙が場を支配した時、玄関の方から「ただいまー」という声がした。同時に階段を駆け下りてくる気配がする。今家にいるのは自分と幸村以外は純也だけのはずだから、当然純也のものだろう。帰ってきたのは姉の彩香(さやか)だ。幸村も気づいて、ドアを振り返った。同時にドアが開く。
「お出迎えしなさいよ良次! 光(こう)くんはいらっしゃい」
「お、おじゃましてます」
良次にほえた後、幸村には猫なで声だった。さすがの幸村も少し押され気味に頭を下げた。良次は姉の出現に顔をしかめる。
「姉貴、部活は?」
「ないわよ。今お母さんのとこに忘れ物届けに行ったの」
「あっそ」
「ちょっと、麦茶ないじゃない!」
「あ、お姉さん、こっちです」
「ありがとう」
冷蔵庫をのぞいたようで、キッチンの方でわめいた彩香に、幸村があわてて届けに行った。自分が行ったら確実に殴られる場面だ。何故こんなものを欲しがるのだろうかと良次は再び思った。あからさまな仮面に気づいていないとは思えなかった。
「あ、そうそう、昨日聞いてて思ったんだけどね」
「はあ」
彩香と幸村の会話がキッチンから聞こえてくる。冷蔵庫を開け閉めする音は麦茶をしまう音だろうか。良次はついていないテレビに視線を向けながら、自分のコップに残っていた麦茶を飲みきってしまおうと口をつけた。
「あなた、うちに嫁に来なさいよ」
姉の声が耳に届いた瞬間、麦茶を吹き出しそうになった。かろうじて防いだが、鼻がつんとする。
「そうすれば兄弟よ。家族になるわよ」
「何言ってんだ」
良次もあわててキッチンに顔を出した。得意げな顔の彩香と、呆然とした顔の幸村。困惑してしきりに首をかしげている純也がいた。
「何って。光くん、兄弟欲しいって言ってたでしょ」
「ああ? てめえが結婚すんのか」
「また『てめえ』って言ったわねえ?」
「でも姉ちゃん、嫁って言った。お婿さんじゃないの?」
「わたしは光くんと結婚する気なんてないわよ。だから、良次の嫁にもらえって言ったの」
「はあ?」
「姉ちゃん。男同士じゃ結婚できないよ」
「純ちゃん、世の中には事実婚という籍を入れない結婚もあるのよ」
「ふうん・・・・・・?」
純也が納得したような、納得できないような顔をする。姉の突飛な言動には慣れているつもりだった良次も、さすがに頭が痛くなった。
「それ以前の問題だろ。ていうかなんか、それは、えっと、なんか、違うだろ。結局兄弟にならないし・・・・・・」
「あ、本末転倒、でしょ。この間辞書見てたら出てきた!」
「たぶんそれだ」
純也の助言に良次はうなずく。しかし、幸村の目が輝いているのに気づいて、ぎょっとした。手を組んで、まるでお祈りのポーズだ。
「お姉さん、素晴らしいアイディアです。これからはお姉さまと呼ばせてください」
「じゃんじゃんお呼びなさい」
最後に「ほほほ」と高笑いを決めた姉に、良次はあきらめの溜息をついた。
一緒にお昼を食べて行きなさいと誘う姉の言葉を振り切って、良次は幸村を玄関まで連れ出した。姉の話に悪乗りしていた幸村も特に抵抗はしなかった。苦笑を浮かべて「せっかくですけど」と断っていた。
「あー楽しかった」
靴を履いて立ち上がった幸村がそんなことを言うので、良次は眉根を寄せた。
「姉貴はクラスメイトのようには扱えないぞ」
「そんなことする気ないさ」
少しむっとしたように幸村が答えた。答えてから、彩香が乱入する前のことを思い出したようで、少し表情を硬くした。良次も思い出してお互い沈黙が落ちる。けれど長くは続かなかった。おそらく、玄関までは冷房が効いていないからだろう。
幸村が口を開く。
「あのさ、一個だけ聞いていいか?」
「なんだ?」
良次が見下ろすと、幸村は少し視線をゆらしたが、すぐに戻ってくる。
「おれが、何を思っててもいいって言ったよな。それほんと?」
「ああ」
「それは、おれが何を思ってても、おれを見てくれるってことでいいのか?」
良次は眉根を寄せた。見てくれるというのが、よくわからない。けれどこれからも自分が幸村を観察することになるのは、おそらく間違いなかった。
「ああ」
「そっか。・・・・・・うん、そっか」
幸村が笑った。ちらちらと、目をかすめるものはあったが、それが『影』なのか表なのかわからなかった。
玄関を開けると、熱気が一気に押し寄せてきた。
「まだ七月なのに、やんなるなー」
顔をしかめて幸村がぼやく。改めて観察して、暑そうなのはその飛び跳ねた頭じゃないかと思うが言わなかった。
「じゃ、今日はありがとな。そだ。宿題終わんなかったら写させてやるよ。国語算数理科社会、この間のテスト百点とったもんね」
得意げに笑って、幸村は空気のゆれる外へと飛び出していった。こいつそんなに頭よかったのかと、良次は目を丸くする。
跳ねていく後ろ姿を、良次は角を曲がって見えなくなるまで観察していた。
2009年12月07日
おさなごころ。その2
おさなごころ ep2
『夏の日/前編』
夏休みに入った。
全国の小学生のほとんどがそうであるように、立川良次(たつかわりょうじ)もまた、一ページも宿題に手をつけていなかった。基本的に外で遊ぶのが好きではない良次は、一つ年下の弟、純也(じゅんや)を引っ張って、リビングで長兄である良一(りょういち)のゲームで遊んでいた。持ち主である中学三年生の良一自身は、昨日から家に帰ってきていない。
夏休みに入った。ということは、当然学校はない。教室にも行かない。クラスメイトに会うこともない。
幸村光一郎(ゆきむらこういちろう)を観察することもない。
別に観察したいわけではなかったのだが、自分が動かしている天然パーマのキャラクターを見て、ふと今何をしているだろうかと考えた。誰かクラスの奴らと遊んでいるのだろうか。夏開けに何をするのか、作戦でも練っているのだろうか。そんなことを考えていたら、いつの間にかテレビのスピーカーから試合終了のゴングが鳴り響いていた。
「兄ちゃん、途中で手止まってたでしょ」
良次の短パンの裾を引きながら、純也がおずおずと口にする。良次は無言で画面を見つめた。弟の操っていたお団子頭の美女が、ピースをしながら一回転している。隅の方には倒されたテンパの男。別に足を変に曲げてはいないが、幸村を思い出した。
「もう一回やる?」
「いや、レースにしよう」
格闘ゲームのカセットを抜くと、テレビの裏に置かれている段ボール箱から、ロードレースのカセットを探した。
「一兄(いちにい)、昨日も帰ってこなかったね」
「そうだな」
「どこ行ってるのかな」
「さあ」
ようやく目当てのカセットを見つけて機械に差し込んだとき、突然リビングのドアが開いた。入ってきたのは高校二年の姉、彩香(さやか)だった。良次たちは四人兄弟だ。
「お帰りなさいは!?」
入ってくるなり怒鳴り声を上げる彩香に、良次はただ視線を返した。純也はあわてて立ち上がって制服姿の姉に駆け寄る。
「気づかなくてごめんね姉ちゃん。お帰り」
「んー、純也君いい子! ただいまぁ」
自分の胸の高さの弟を、彩香はがばっとばかりに思い切り抱きしめる。純也は苦しげにもがいた。
「それに比べて良次ったら可愛くない子」
放してくれともがいている純也を気にも留めず、彩香は純也の肩越しに良次をにらむ。良次は返す言葉もなく溜息をついた。
「さ! 出かけるわよ」
思う存分純也の抱き心地を堪能したあと、彩香は唐突に宣言した。
「どこに?」
素直に首をかしげる純也に、良次は再び溜息をついた。
「十分後、着替えて下りてくるから、準備しておきなさい」
彩香は上機嫌に微笑むと、質問には答えないまま嵐のようにリビングを出て行った。良次はそれを見送ると、ゲームの電源プラグをコンセントから外した。「どこに?」と尋ねた純也も、本当はわかっていたのか、答えないことで気づいたのか、冷房のスイッチを切りに行く。
姉の買い物に無理矢理付き合わされるのは、別に珍しいことではなかった。
宣言どおり十分で完璧に化粧も施した姉は、かなり上機嫌だった。
果たして女子高生が弟二人を引き連れて買い物をするものか、良次は時々疑問に思う。だが他人の家は知らないので、こんなものかとも思う。
今日は夏のサンダルとスカート、それから水着がお目当てらしい。相手はいるのかと尋ねたら殴られた。
場所は家の近くの大型ショッピングセンター。姉の財布に余裕があると、二駅ほど離れた街中まで出て行かなければならなくなるので、良次は目的地を聞いて若干救われた気分になった。なってから、それはおかしくないかと思うが、とりあえず姉に逆らうことは出来ない。というより強制連行のため抵抗は意味を成さない。
良次の担当は基本的に買ったものの荷物持ちのため、適当に近くのベンチでぼんやりとしていた。純也は彩香に引き回されて、あれはどうだこれはどうだと意見を求められている。一生懸命答えている弟を見て、良次はよくやるなと感心していた。
姉と弟を目で追うのも飽きた良次は、行きかう人を眺めはじめた。親子づれ、友達グループ。女子だけ、男子だけが多いかと思えば、男女混じってやたらとテンションの高い奴らもいた。年齢層も一通りいる。夏休みだからだと気づいたのはかなりしてからだった。さすがに大人の男性は少ない。
しばらくして、人の波の向こうでひょこひょこと跳ねているものに目が留まった。すぐに誰か気づく。一学期間の観察は伊達ではない。
向こうはしばらく良次に気づかなかった。どこかぼんやりとした様子で、一人で歩いていた。まとう空気がどちらかといえば自然教室の時に近い。何をしに来たのか気になった。
間に人がいなくなった数歩の距離になって、ようやくベンチに座る良次に気づいたようで目があった。数度目を瞬かせた後、幸村光一郎は目をネコのように細めて近づいてきた。
「どうしたこんなとこで。デートか、女子とデートか?」
良次の隣に浅く腰かけながら、幸村は訪ねてくる。良次は首を横に振った。
「買い物に無理矢理」
「母ちゃんの?」
「姉の。弟も一緒だ」
「お前、兄弟多いな」
「四人。姉兄弟」
「へえ、いいな」
「別に。上はうるさいぞ」
夏休み前、良次と幸村の関係は少し変わった。一方的に観察するだけだったのが、たまに会話するようになった。たまに、幸村が話しかけてくるようになったのだ。
だからといって仲良くなったのかといえばそうではない。幸村の教室内の騒ぎには良次は参加したことないし、幸村も入れることはない。
「おれ一人だからさー。うらやましい」
どこにいるのかと聞いてくるので、良次は斜め前にある店を指差した。幸村は目を細めながら「へえー似てるー?」と笑った。
「お前は何しに来たんだ?」
「ん? 別に。なんとなくふらふら」
「ふらふらわざわざ?」
「何だそれ」
幸村は笑うと、ベンチの上で伸びをした。続けて首を曲げて関節を鳴らす。「んー。眠い」と欠伸を漏らす幸村を、良次は観察した。表面上は、普段と変わらない。けれどチラチラと気になるのはやはり〇・〇三秒の影のせいか。最近、それよりも長い気がするが。
「・・・・・・人ごみに来たくて。歩いてたらここに来てたんだ」
よくわからなかった。それこそ、わざわざする必要がわからない。
それきり、会話は続かなかった。良次はうつむいている幸村を観察した。相変わらず髪は跳ねている。もしかしたらテンパにくわえて寝癖もあるのかもしれない。
変わったことといえば、観察しているのを隠さなくなった、というのもある。
幸村は良次が見ていても何も言わない。気づいていないわけがないのはわかっている。時々、観察することを許されているような気がして嫌だった。
それでも見てしまう自分が、嫌だった。
「あら、良次に友達なんてめずらしい。いじめてんじゃないでしょうね」
良次は視線を幸村から正面に戻した。幸村も同時に顔を上げる。微笑む彩香と、その影に隠れて立つようにして純也がいた。買い物は済んだらしい。純也の手にショップバッグが握られている。
「・・・・・・別に友達ってわけじゃ」
「ひっでえ良次。おれたち親友だろー? 初めまして、お姉さん」
にっこりと、いつものように幸村は笑顔を向けた。ひょこんと立ち上がって頭まで下げている。
「あら可愛い。こんな無愛想と仲良くしてくれてありがとね」
いつものようと思った笑顔は、良次の心に大きな違和感を残していった。
「じゃあ良次、お姉さんたち戻ってきたし、おれ行くな」
「あら、なんなら一緒にお買い物しましょう。あとでアイスくらいおごるわよ」
良次は姉の誘いに眉根を寄せた。幸村がなにか言う前に口を開く。
「誰がてめぇの荷物持ちなんか進んでやるか」
「お姉様に向かって『てめぇ』?」
「荷物持ちは否定しないんだな」
「しないわよ。だからアイスおごるって言ってんじゃない。それより『てめぇ』を正しなさい」
「めったにそんなことねえくせに」
「当たり前でしょう。兄弟は無償奉仕よ」
良次はベンチに座ったままにらみあげた。どうせ立ってもまだ身長差は勝てない。二人はしばらくにらみ合った後、彩香が鼻を鳴らして顔を逸らした。上二人の険悪なやり取りをどうしたら良いのかとおろおろとしていた純也はほっと息をついて、彩香の服の裾をつかんだ。
「あんたに聞いてんじゃないのよ。この子に聞いてるの」
仁王立ちした彩香が「ねえ?」と幸村に話を振る。ぼんやりと二人のやり取りを見ていた幸村は、目をぱちくりとさせた。
「お姉さん、欲しいなあ」
「はあ?」
「いいなあ、良次。ホントうらやましい」
「まあ嬉しいこと言ってくれるわねえ」
彩香の機嫌が一瞬にして上機嫌に戻った。良次は胸の辺りがもやもやして、気持ちが悪かった。
「お前、ちゃんと聞いてたのか? 姉なんて、いや、こいつなんて弟を弟とも思ってないやつだぞ」
「あらやだ、ちゃんと弟だってわかってるわよ。だからこそなんじゃない」
あっけらかんと言う姉に、良次は一瞬絶句した。普段はもうあきらめている部分だ。けれど、幸村がうらやましいというのにはうなずくことができない。
「・・・・・・いいようにこき使うし、ちょっと機嫌が悪いと当り散らすし、良いことなんて何にもないぞ」
「良次に言われたくないよ」
ふっと真顔になった幸村が、良次を見つめた。めずらしく、にらむという表現の方が合う。良次は戸惑った。『影』が完全に表に出てきた気がした。
「それは、いるから言えることだろ。わかってるの? わかってて言ってるんならひどいよね。一人じゃない。絶対に一人じゃないってことだろ。お前わかってない!」
幸村の顔は、真顔から、皮肉げにゆがめられ、最後は何かを我慢するような必死な顔になっていた。良次は思わずベンチから立ち上がる。
幸村が何かを怒っていることは理解できたが、何に怒っているのか理解できなかった。眉根を寄せて、幸村を見つめる。
長いこと観察をしてきた。けれど、彼の考えていることがわかったためしはない。
「馬鹿!」
幸村は吐き捨てると同時にきびすを返して、走って行ってしまった。純也が服の裾を引っ張ったことで、良次は我に帰る。
「兄ちゃん、追っかけなくていいの?」
「あんたにも馬鹿なんていってもらえる友達ができるとは、今日は楽しい一日ねえ~」
友達と呼べるほど親しくなった覚えはないし、なるつもりもない。幸村の頭はもう、見えなくなっていた。
「次、行くぞ」
良次は純也の手から荷物を奪った。彩香は当然とばかりに次の店に向かって先頭を歩く。
「兄ちゃん、ケンカしたら仲直りしなきゃダメだよ」
弟の言葉に、良次は幸村が浮かべていた表情を思い出して顔をしかめた。
2009年12月01日
サブリミナル効果
「おさなごころ。」のep1に出しました、サブリミナル効果についての解説です。
本文中にもうちょっと詳しく書ければよかったのですが、技量が足りず、すみません。
相肩に言われて気付きました(汗)。
遅くなってごめんよ(相肩へ)。
サブリミナル効果。
それはマインドコントロールの一種です。
無意識下、潜在意識に刺激を与えることで起こる効果のことを言います。
良次も読んだ、映画館の実験。
ある映画館で、映画の上映中、〇・〇三秒、「コーラを飲め」「ポップコーンを食べろ」
というメッセージの入ったの映像を繰り返し流します。
もちろん肉眼では確認できません。
その映画の上映終了後、コーラとポップコーンの売り上げが増したという。
そういう実験です。
ぶっちゃけ、この実験の信憑性は疑われていますが(苦笑)。
科学的な証明はまだできていないそうですが、
映画やテレビ放送などでの使用はほとんど禁止されています。
ちゃんと認識はできていないのだけれど、
頭の中に残る違和感が体や心に影響を及ぼす。
良次は幸村にそんなサブリミナル的な違和を感じ、視線を送ってしまうのだと、
・・・・・・本人による言い訳です。
ま、子供ですので。
何かがあると、別の何かのせいにしてしまうのですよ。
まあ、そこは子供だけの話ではないですが。
幸村君の笑顔に違和はあるので、半分正解なのです。
別に気になるからみていた、でいいのに。(俺が言うな)
素直になれない子は大変です。
別にテーマというわけではなく一つの比喩表現でしたので、
さらっと読み流していただいてぜんっぜん構わないです。
ただ、書き手からの情報の少なさはあんまりでした・・・・・・。
書きすぎてもうざったくなってしまいますけどね。
以後気をつけたいと思います。
さき、言ってくれてありがとう!!
2009年11月11日
おさなごころ。
おさなごころ ep1
『動き出していたもの』
小学五年生の立川良次(たつかわりょうじ)は、クラスメイトである幸村光一郎(ゆきむらこういちろう)を観察するのが日課だった。毎日本の陰に隠れて、彼の行動を盗み見る。
幸村光一郎は飛び跳ねたふわふわの髪の毛が印象的な男子だった。髪の毛のように、彼の性格も飛び跳ねていて、突飛な行動をしては笑いを沸かし、いつもクラスの中心にいるような人物だった。この間ドアのガラスを割ったときも、その愛嬌ある笑顔で、散々怒られはしたが結局大人からも許されていた。世渡りが上手いのだろうなと、良次は「世渡り」の意味もよくわからないままなんとなくそう思っていた。
今現在幸村は、教卓の上にどっ座り、クラスの男子を集めてなにやら演説めいたことをしていた。力説しているのはどうやって女子にもてるかということだ。女子もいるど真ん中で。
馬鹿なのは聞き入っているほかの男子だと、良次は思う。女子が若干しかめ面をしているのに、教卓に座る幸村が気づかないわけがないのだ。
良次は本と幸村との間で視線をふらふらとさせているが、本の方はほとんど読んでいない。たまに、怪しまれないようにめくる。大きい本のほうが都合いいので、図鑑を図書室から借りてくることが多かった。今日の本は冬の草木だった。今はようやく梅雨の明けた七月。誰も気に留めてなどいなかったが、かなりのフライングだった。
幸村は一言で言い表せば変な奴だった。いつもからからと笑いながらクラスを巻き込んで騒ぎを起こし、その様子を背後で見ながらまたからからと笑う。クラスを巻き込むというより、動かしているのだと気づいたのは、最近のことだった。
最初は、やかましい奴がいるなという程度だった。小さい頃から大勢で騒いで遊ぶことが好きではなかった良次は、無意識に避けていた。
だというのにいつの間にか目で追うようになっていた。からから笑う顔の中に、何か別のものが混じっている気がしたのだ。
自分が幸村を目で追っていると自覚した頃、良次はバリケードとしてしかほとんど利用してない本の内容に、めずらしく目を止めた。そこに書かれていたことがなんとなく今の状況に当てはまる気がしたからだ。
その日隠れるために読んでいた科学の本には、サブリミナル効果の話がのっていた。とはいえ良次はサブリミナル効果として覚えたのではなく、映画館のコーラの話と認識していた。
有名なその実験のコーラの映像と同じように、幸村が、自分を見るように何か信号を発しているのだ。それが、〇・〇三秒、笑顔の中でチラチラと見えるのだ。だから自分は目で追うのだろうと、良次は考えていた。
その考えは、当たっているようで、当たっていなかった。当たっていないようでいて、当たっていた。
良次が幸村の笑顔の裏に何かがあると知ったのは、数週間前、六月中ごろにあった一泊二日の自然教室でのことだった。
クラスのロッジで夜中に目が覚めた良次は、与えられた部屋から抜けてトイレに行った。出発前は徹夜するだの、女子の部屋へ行くだの話をしていた連中は、その日のプログラムを終えてみれば、消灯から三十分もせずにみんな眠ってしまった。元々そんな話し合いには参加していない良次はさっさと布団にもぐっていた。
トイレで用を済まし、部屋に戻ろうとして、間にある広間に何かの気配があることに気づき、良次は驚いた。すぐに人だと、それも幸村光一郎であると気づけたのは、窓の外から入ってくる、煌々とした月明かりのおかげだった。
「何やってんだ」
と、思わず声をかけてしまったのは、妙な格好をしていたからだ。板敷きの広間に横になり、右足を内側に折り曲げて、足で数字の「4」を作っているようだった。手は無造作に投げ出していて、顔はぼんやりと天井を見上げたままだ。適当な上半身と、かっちりと形を決めた下半身が奇妙さを際立たせていた。しかし、普段の幸村のおかしさとはちょっぴり質が違う気がした。だからこそ、声をかけずにいられなかった。
「良次か」
たん、と小太鼓をたたいたような声がした。それは小気味良いのに、すぐに余韻なく途絶える。声の低さも、普段の彼ではない。
「何やってんだ? 足は数字の四か?」
「お、よく気づいた」
幸村が、少し笑った。はねた髪の毛が、それにあわせて少し揺れる。そういえばまともに会話をしたのはこれが初めてだと、良次はこのとき気づいた。よく自分の名前を知っていたなと思う。誰とも交わらない自分が逆に目立っているとは、良次は気づいていなかった。
「さっき昼間やったときはバレエかよって言われたからなあ。おれの隠された暗号を読み取ってくれるとは嬉しいね」
皮肉っぽい言い回し。作っているなと、良次は思った。嬉しいとか言いながら、彼は良次のほうを見ることもない。
「で、何でそんなかっこうしてこんな所にいるんだ。先生が来たら怒られるぞ」
「先生なんてどうでもいいよ。それに多分寝てるでしょ」
「冷えるぞ」
「そうだねえ」
六月の山、しかも深夜ともなればまだ寒い。普段はもう半そでだが、今日は長袖のジャージを着ていた。
「――死にたいから、かなあ」
「は?」
「だから、四は、死って言うじゃん? 死を体で表してみよう、そしたら近づけるかなあと思ってさー」
良次にはさっぱり意味がわからなかった。死にたいという気持ちも、それで何故、広間で数字の四を表すことになるのかも。トーンと質は違っても、幸村はやはり変な奴で、良次には理解できなかった。
その後、特に会話らしい会話も成立せず、良次は部屋に戻った。広間を去る前に「さっさと部屋に戻れよ」と言ってみたが、幸村が従った気配はなかった。
「良いか? 女はちょい悪い感じの男が好きだ」
ふと、幸村の声が耳に入ってきて、良次は回想から戻ってきた。ニヤニヤ笑いながらクラスの男子を眺める幸村を盗み見る。
「だがただの悪は受けが悪い。悪の中に影を作れ、影を」
影。そういわれれば、幸村の「死にたい」というのも、ある意味では影かもしれない。女にもてたいのかこいつは。
そう思った瞬間、ふいにこちらを向いた幸村と目が合った。良次は驚いてすぐさま視線を外してしまった。本に顔をうずめながら、しまったと思うがもう遅い。
今気付かれたのか、それともずっと気づいていたのか。
良次は必死に速まる心臓を抑えようとしながら、ふたたび幸村を盗み見る。幸村はもう集まっている男子に向き直って、何かを言って笑い声を上げていた。
どっと冷や汗が吹き出る気がした。別に何もやましいことはしていないはずなのだが、気にしていると気づかれるのが嫌だった。恥ずかしい。いや、映画館を出てコーラを飲むやつにはなりたくないからだ。他人に自分の心を操られるなんて、絶対に嫌だ。だからだ。
そんなことを考えてちらと見ると、また目が合った。今度は幸村も、話の途中で盗み見たような感じだった。まるで何かの勝負のように感じられて、良次は本を閉じてまっすぐ幸村の横顔を見つめる。先に良次から視線を逸らした幸村は、ふっと口元に笑みを浮かべた。思わずこぼれてしまったというような、そんなかすかな笑みだった。
後に駆け引きの始まりはここからだったのだろうと、立川良次は思うことになる。
だが当時小学五年生だった二人にその自覚はなかった。いや、おそらく今でも幸村に駆け引きの自覚はないのかもしれない。
これは無意識下で幼い心が生んだ、後の救いにつながる物語だ。
2009年10月28日
なんだこれ。
なんだこれ、と、思わずブログに書きます。
次回コミティアに出す予定の『情の行方~始動~』が、予定外なところで終わりました。
終え、ちゃった・・・・・・?
あれ、なんだこれ。
いや、喜ばしいことですけど、
おかしい。
もうちょっと先の展開まで書いて第一部になる予定だったのですが、
これだと、三部作にならない・・・・・・・。
四部? でも四だと縁起悪い気もします。
でも、四って隙間のない唯一の数字だそうですよ。漢字。
でも、でもって・・・・・・。
むーん。とりあえず、これから推敲に移ります。
2009年10月05日
「コイ。」完結。
えー、完結。ということで一つ反省会というか、解説というか。
とりあえず、完結ですという報告です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
コメントくださった方々も本当にありがとうございます。
最初は、なんか恋について語りたいなあと、
身の程も知らずに書き出したのですが、
結果的に【その1】となった初めの記事を書いている途中で、
自分のことを語りたいと主張し始めたキャラがいまして。
その子の話になりました。
まさか大人になるまで書かなきゃならなくなるとは思っていませんでしたが。
思わぬ伏兵の、【その2】の語り手が、ストーリーに深みを与えてくれたような気がします。
【その1-5~8】
としてしまったのは、なんだかもう、反則技な気がしましたが、
全て同じ場所での出来事の上、題名を『桜の下で』としたかったので、
一つ一つが短いし(ブログとしてはそうでもないですが・・・・・・)、
一気に書き上げたので、一つにまとめてしまいました。
この話は、叶わぬ恋で友情と恋愛の間を悶々とする人物と、
その叶わぬ恋に身を焦がす人物に恋をしてしまった人物の、
叶わぬ初恋についてのお話です。
初恋ですって。
あれまあ。(←オバハン)
結局物凄くハッピーエンドでしたけれどね。
多分手紙を受け取った後輩は、殴りに行くと思います。子供と連れ合いと一緒に。
で、鍋でも囲んでくれるんじゃないでしょうか。
ところで、
さすがに気づかれているとは思いますが、
このシリーズ、個人情報はほとんど明かしてません。
名前、性別。最後の方でなんとか高校生だったということがわかるくらい。
ぶっちゃけそんなもん些細な問題で、いっそリンクしてることすら気付かれなくても問題はなく、
そういう外見的立場は関係なしに、どこかしらの一文にでも共感納得いただける内容になっていたらと思って書いてました。
成功しているでしょうか。
それでもさすがにわかりにくくなってしまっているので、
高校生だということも明かされていますし、
ここで時間軸と【その1】と【その2】の関係だけ少し解説したいと思います。
わかりやすいようにリンクも貼っておきます。
【コイ。】 題名:『土ぼこりの中に』
時間軸的にも一番古い、語り手が高校一年の入学当初の話です。
【コイ。その2】 題名:『校舎の影で』
明言されてはいませんが、泣いている『あの人』が【その1】の語り手です。
時間はかなり経っていて、【その1】の語り手が高校三年の秋口です。
【その2】の語り手は高校一年で、【その1】の語り手の部活の後輩になります。
余談ですが【その2】の語り手は、中学時代に『あの人』を知って、追いかけて高校に入りました。
【コイ。その1-2】 題名:『教室の片隅の』
時間は戻って、語り手が高校一年の秋辺りですかね。
季節が二度移ったといっているので。
【コイ。その2-2】 題名:『桜の下へ』
前の回の秋口から、冬を経て、二月の終わりぐらいでしょうか。
色々ゆれましたが、決意する語り手です。
これからこの【コイ。】のシリーズをどう展開させようか悩んだ末、
ちゃんとストーリーとして語り手たちを成長させようと決めた回でもあります。
故にちょっと急展開になり、長くなってしまいました。
本当はその間のエピソードもあるのですが、わたしの技量不足で描ききれませんでした。
しかも書くにはまた登場人物が増えてしまいそうだったので。
【コイ。その1-3】 題名:『夢の中は』
今後の展開のための伏線の回です。
なんだかシリーズの中で異色な気がするのは、動作の描写が多いからですかね。
時間軸としては、前の回から、次までの間ならいつとも取れるのですが、
涙が止まらないといっているので、おそらく【コイ。その2】と同じ時期だと思います。
相手を想い続けて二年半、そろそろ限界が来ました。
【コイ。その1-4】 題名:『信号を見つめて』
これまた急展開な話ですが、高校生としては当然ぶち当たる『進路』でケンカした語り手です。
時間軸は高校三年の冬、おそらく冬休み明けでしょう。
彼らの通う学校は、大学まである私立校なので、内部入試で大学にいけます。
けれど、語り手の想い人は就職の道を選びました。
それを後から知ることになったために、ケンカしました。
まあ、そんな裏設定はどうでもいいんですけれどね。
とにかく、時間の流れによって状況の変化は訪れる、という話です。
『信号を見つめて』いるのは、目の前の交差点を渡りたくないからです。
【コイ。その2-3】 題名:『花びらの散る中』
【その1】の語り手の卒業式当日の話。
『あの人を』『桜の下へ』と呼び出して告白です。
どうやって告白するのかは前の回で書いたので、本当は書く予定はなかったのですが、
そのまま【その1】で最後まで書くのはなんかなーと思い、インターバルです。
でもこのシリーズで一番言いたかったことが書けました。
【コイ。その1-5~8】 題名:『桜の下で』
前述の通り、反則技・・・・・・。題名は【その2-2】と対応させています。
卒業式当日です。それまで約二ヶ月間、ケンカをしていた二人。
お前らどんだけ子供、というか青春してんだという突っ込みは置いときまして。
後輩に言われたことは、結局このときにはわかりませんでした。
でも、仲直りしなければこのまま完全に離れてしまうことには気付きます。
仲直りとかお前らどんだけ青春(以下略)。
仲直りはしましたが、二人の恋は叶うことなく、親友のまま、先輩後輩のままに終わりました。
【コイ。その1-9】 題名:『満月の下の手紙にて』
終わったのですが、後日談です。いや、終わったからこそかもしれませんが。
時間がかなり経ちました。おそらくご想像よりもかなり時間が経っていると思います。
具体的な数字は書きませんが、数年ではないことは言っておきます。
前に述べたとおり、子供がいてもおかしくない年齢にはなっています。
夢で見て当時を思い出し、後輩に手紙を書く語り手です。
最初の二行以外は、全て後輩宛の手紙の内容になります。
語り手のかつての想い人である親友が、ものすごく謎のままで終わってますが、わざとです。
深くは語られてませんが、二人とも、想いを受け止めるだけの余裕が、
長い時間のあいだに生まれたのは確かでしょう。
と、こんなところでしょうか。
蛇足な気がしますが、わかりにくかったところは整理したつもりです。
わかりにくかったところがあること自体もうどうしよう修行して来いって感じですが。
いえ、まあ、修行中の身です。
しかし、改めてみてみると、時間軸が行ったり来たりしていて、本当にわかりにくいですね・・・・・・。
この話、実は大まかなあらすじだけはできていた小説の主要人物の、
モノローグを展開させたものです。
書き始めたきっかけは前述の通りですが。
そのため、自分の中の設定として、名前性別容姿など、本当は決まっています。
ですが、あえて明かさなかったからこそ【コイ。】シリーズは一つの作品として、完成できたのだと思います。
とはいえ、これは、小説ではないです。
今更ですが、小説ではないです。
いつか必ずこの【コイ。】シリーズをベースに、小説を完成させたいと思います。
まあ、これが一つの作品だというのは、変わりませんけれど。
というわけで、ほぼ自分の中の整理のための、解説でした!!(←おい)
2009年10月04日
コイ。その1-9
夢を見た。
懐かしい、高校の卒業式の夢だった。
桜の下で背を向けた君は、今ごろどうしているだろう。
あれからかなりの時間が経った。
あの時告げられた言葉は、ようやく理解できるようになった。
時間を経たからわかるようになったともいえる。
伴侶と呼べる存在を得たのも大きい。
今はもう、あのころを思い出しても苦しくなることはない。
逆に心があったかくなる。
多少の痛みは伴うけれど、支えてくれる人を得た。
あのころ自分が怖かったのは、相手に距離を置かれることだった。
特別で、特別すぎて手が出せなかった。
なまじ親友として隣を許されたためにその温もりに甘えていた。
――の、だと思う。
君には予感があったのだろうか。
あのまま自分が止まったままだと、恋心そのものを否定する可能性があると。
当時もゆれたけれど、その後も何度もあった。
けれど完全に否定せずにこれたのは、君の言葉があったから。
今でも相手とは親友のまま。
あのころの想いはずいぶんたってから告げたけれど。
その時はすでにお互い恋人がいて、傍から見ればかなりおかしな光景だっただろう。
だけど自分たちにとっては大切な、大きなひとつの区切りだった。
変わったこともある。でもそれは、時間という流れが解決してくれた。
確かに君が言った通りだった。
自分の抱いた想いはいつまでも消えることはなくて、
それは伴侶を得ても変わらず。
夢で見た胸に点る明かりは、消えることはなかった。
自分でも呆れるほど長い間、相手を想い続けていた。
でも、一つだけあのころの君に言っていいだろうか。
時間をかけなければわからないこともあるんだと。
自分は、馬鹿だから。ずいぶん時間がかかった。
君があの時すでに気づいていたことは、いい歳してから知った。
しかも、君に教えられたというのに別の人にも教えられてね。
それがまあ、伴侶なんだけれど。
君にはだいぶひどいことをしたと思う。
本当に、あのころの自分をよく見て、見守ってくれていて。
それなのに、自分は何も返せなかった。
後悔で胸を痛めるのは、あのころ相手に想いを告げなかったことより、
そっちの方が多いくらいだ。
あのころ想像していた未来とは、だいぶ違った。
あのころは未来も闇だったから。
叶わぬ恋は、やはり叶わぬ恋だった。
だけれど得たものも大きかった。いろんな感情を知った。
人の心は不変ではない。大きくゆれうごき、変化する。
それは良い面も悪い面もあって、変化するからこそ人は生きていけるのだろう。
でも、過去は変わらない。事実は変わらない。
積み重ねられたものは変わらない。
それが、支えになるんだね。
君に出会えてよかった。
幸せですか? 幸せだったら殴りに来て。
題名:『満月の下の手紙にて』
2009年10月03日
コイ。その1-5~8
【1-5】
喧嘩をしたまま、卒業式を迎えた。
相手が声をかけてきても、自分は返事をしなかった。
次第に相手も呆れたのか、声をかけてこなくなった。
それでも目で追ってしまうのが、なんとも情けなかった。
相手は他の友人に囲まれて、笑っている。
どうしようもない嫉妬に焦がれた。
このまま終わってしまうのか。
頭によぎる。
だが自分はどうすればいい。
想いの差を、どううめればいい。
どう整理すればいい。
あきらめる?
このまま、なかったことにして。
叶わないことは初めから、わかっていたというのに。
【1-6】
――歩いて欲しいんです。自分は。
後輩に呼び出されて告げられた。
怒涛のように告げられた言葉は、心の中に波のように押し入ってきたけれど、
それは、後輩の心の強さを見ただけだった。
絶対叶わない恋。
だから、親友でいようと思った。
そうすれば、ずっと一緒にいられると思ったから。
でも違った。親友でも、相手の傍にはいられない。
ならどんな肩書きなら、相手のそばにいられるのか。
いや、そんな問題ではないことはわかっている。
それならばどんな問題なのか、自分にはわからなかった。
【1-7】
人の心はころころ変わる。
出会ったとき、過ごした時間。
自分は覚悟して、相手の親友という立場をつらぬこうと思った。
この恋情を抱いているからこそ、この立場でいようと思った。
けれど、今はぐらぐらとゆれている。
だって、
――好きなのだ。
どうしようもなく。
伝えられたら何かが変わるのか。
変わってしまうのは、確実だろう。
恋をなめていたしっぺ返しか。
後輩の強さをうらやましく思う。
【1-8】
――たとえ何があっても、自分さえ否定しなければ、
――自分が恋をしていた事実は、消えることはない。
後輩が告げた言葉を思い返してはっとした。
自分は否定しなかったか。それは一番したくなかったことだというのに。
自分は三年間想い続けた相手を探した。
ぼんやりと別の桜の木を見上げる相手を見つけた。
目に入った瞬間に胸が詰まる。
変わる。それぞれ身を置く環境が変わる。
相手のせいではない。それが否応なく訪れるのは、生きているからだ。
このまま離れて、自分はどうなるというのだろう。
相手が自分に気付いた。目が合って、向こうが苦笑を浮かべた。
その顔を見て、謝らなければならないと思った。
あの苦笑はそうだ。もうお互いいい加減にしよう、そういう顔だ。
ダイッキライなんてうそだと、声を大にして叫びたい。
涙がこぼれた。あわてる。あわてる自分を見て、相手が笑った。
だめだ、自分はこの笑顔を放したくない。
けれど自分が想いを告げれば相手は困る。困って、きっと離れていく。
それは物理的な距離ではなく心の距離。
それではダメだと、後輩はきっと怒るだろう。
でも、それが自分という人間なのだ。
立ち止まっているかもしれない。
つらいよ、つらいけど、幸福なんだ。
胸に光るこの灯火を、消したくはない。
ごめんね。
こんな自分を想ってくれてありがとう。
題名:『桜の下で』
2009年10月03日
コイ。その2-3
自分の言ったことを、あの人はちゃんと理解してくれただろうか。
歩いて欲しいんです。自分は。
そのまま立ち止まっていたらつらいだけなんです。
自分も、この時間が止まればいいって、思ったことがある。
けれど、時間は止まらないって思い知ったから。
あなたも本当は知っているでしょう。
時間は止まらない。ずっと同じ状況であるはずがない。
それは、人の心も一緒だ。
叶わない恋を叶えるために、自分は告げるのではないのです。
叶わない恋を、なかった事にしたくないから告げるのです。
この一年間、いや、あの人の傍に行きたいと願ってから数えれば、約二年。
この胸に抱いた想いは、いつまでもこの胸にある。
それはもうそれだけで、自分の財産なのだ。
知ってください。気づいてください。
たとえ何があっても、自分さえ否定しなければ、
自分が恋をしていた事実は、消えることはないのだと。
だから前に進んでください。ほら、もう、青に変わります。
題名:『花びらの散る中』
2009年10月02日
コイ。その1-4
卒業を目前に控えた冬。
自分は出会ったとき以来の大喧嘩を、相手としてしまった。
こういうとき、自分と相手の気持ちは同じではないのだと思い知る。
わかっていたはずなのに、ちっとも心で対処できなかった。
もっと先だと思っていた。
わかれ道。
勝手に思い込んでいたのは自分のミス。
だけど、何で話してくれなかったのか。
それは、恋人でなくったって親友だって、話してくれるところではないのか。
頭の中が真っ白になって、自分は相手に向かって、理不尽なことを言い募った。
相手は少し顔をしかめて、でも自分を怒りもせずに、溜息をついただけだった。
悔しくて悔しくて、自分は相手にとってなんなのだろうと、もうわけがわからなくなった。
ダイッキライ。
思ってもいないことを口にする。どんな子供かと自己嫌悪に陥った。
まだ傍にいられると思っていた。
けれど、相手はいつの間にか自分の道をしっかり歩き出していて、
自分は、何もできなくて、取り残された気分になる。
特別だと思ってた。意味が違っても、特別だと思ってた。
だから、傍にいれば大丈夫だと思っていた。
なのに、傍にいられなくなる。そのことを、相手はなんとも思っていないことを知った。
友情と恋情は、こんなにも違うものだっただろうか。
頭ではわかっていたことなのに、わかっていて相手の傍にいることを決めたのに。
ゆらぐ、ゆらぐ。足元がゆらぐ。
三年間想い続けて、報われないことは覚悟の上だった。
そもそも、報われる気はなかった。最初から、かなわぬ相手とわかっていた。
だけど、想いは募るばかりで。それは自分でもコントロールできない域まで達していて。
本当は、応援しなきゃならない、その道。
いや、応援してる。本当は。
けど、離れたくない。離れたくないのだ。
だって、
離れたら、
相手も、自分も、
お互いのこと、忘れてしまうかもしれない。
それだけは、嫌なのだ。絶対に、嫌なのだ。
不安で不安で。そう、夢のように未来が真っ暗。
かなわぬ相手に恋をして、きづかれていないか、騙していないか、
ずっと気にしてきたけれど、一緒に過ごした時間はすごく幸せだった。
あの夢は、ちょっとした予知だったのかもしれない。
だけど、否応なく終わる。相手が、終わらせるのだ。
自分には、何もできないまま。
題名:『信号を見つめて』
2009年09月30日
コイ。その1-3
夢を見た。
闇の中にいる自分を、眺め下ろしている夢だった。
迫るような、夜の森のような闇ではなくて、
ただ暗い、何もない空間だった。
見ているのは過去の自分だとすぐに気付いた。
あのころの、恋を知る前の、相手と出会う前の自分だ。
全てが闇だったあのころ。
しばらく闇を見つめていた過去の自分は、
ふと自分のほうを見た。
にらみつけるような、羨望のような、静かなのに熱い視線を感じた。
しかし目が合うわけではなく、何かと思い視線を下ろせば、
自分の胸元が光っていた。
すぐに何かわかった。自分が最も想う相手。
自分の胸の中にいる、相手への想いが光っている。
周りを見るとひたすら闇だ。
何もない。何も見えない。
わずかな光が、少し前の自分を照らしているだけ。
過去も、未来も遠くが見えない。
でも、現在の自分は、積もった相手への想いが照らしている。
手元が見える。足元が見える。
足元に、水溜りができているのが見えたところで目が覚めた。
我ながら、中々できた夢だと思った。
自分の状況が的確に抽象化されている。
最近涙が止まらないのだ。
照らされている今がどれだけ幸福であるか噛みしめる。
過去も、未来も見えないけれど、現在、想う相手の傍にいる。
同じ気持ちを返してくれるわけではないけれど、
これでいい、これでいいと、何度言い聞かせてきたか知れないけれど、
これでいいんだ。
だって、現在は、輝いている。
いまは、輝いている。
題名:『夢の中は』
2009年09月28日
コイ。その2-2
あの人の泣き顔を見てしまうと、
あの人がせっかく笑いかけてくれても、
自分には上手く笑い返せなくなっていた。
あの人は優しいから、そんな自分に気付いて心配してくれる。
あなたのせいですよなんて、自分には言うことができない。
ただただ、ごまかす日々。
あの人とは学年が違うから、授業中に会うことがないのは、まだ救いだった。
だけど神様は意地悪だ。食堂に行けば会ってしまうし、職員室に行けば偶然かち合う。
部活に行けば、引退してるのにまだ顔を出している。
ああ、こっちはあの人せいか。
無邪気に後輩にからむ姿が憎らしくて、
愛おしい。
あの時の涙は、幻だったのか。
時々、思うことがある。
けれどそうではない。あの人が、他人の前では完璧に隠しているのだと気がついた。
自分はそれをたまたまのぞき見てしまっただけなのだ。
どうして、そこまでしても相手を想っていられるのだろう。
絶対に叶わないとわかっているのに。
何を思ってあの人は、相手のそばにいるのか。
いられるのか。
自分には、できない。
できるあの人に、恋とはまた別のところで、憧れる。
でも、できるあの人を、不憫にも思う。
なんて不器用な人なのか。
苦しい。苦しい。何もできない自分が苦しい。
悔しい。悔しい。何もできない自分が悔しい。
悲しい。悲しい。できてしまうあの人が悲しい。
だけど、本当にそれで良いのかと、自分はあの人に問いたい。
絶対に振り向かない相手。わかっていても抑えられないから、あなたは涙を流すのでしょう?
想いを、相手に伝えることは、できないのですか?
問いは、全て自分に跳ね返る。
絶対に振り向くことのないあの人に、自分は想いを伝えることができるのか。
できる? できない?
平行線をたどるのは、つらいけれど一番楽な選択なのかもしれない。
だけど楽なその選択は、いつまでも前に進めない。
やっと、自分は気付くことができた。
進みたくないのかもしれない。あの人は。
でも、時間は容赦なく流れ、周りの環境はずんずん変化していく。
そうなったとき、あの人は一体どうするのだろう。
止まったまま。つらいままなのか。
あの人がそんな場所に身を置いてしまうようには、自分は、させたくない。
エゴ。エゴだろうこれは。
だけど、楽だからといって、前に進まずにいることがいいことだとも、思えない。
自分があの人のためにできること。
それは、たとえ叶わぬ相手を想っても、それを伝えることができるのだと、
証明して見せること。
そして、伝えてしまっても、その想いが消えることはないのだと、
伝えること。
そろそろ、歩き出さねばならない。
自分も、あなたも。
題名:『桜の下へ』
2009年09月13日
アイ。
「愛しているよ」
なんてうそ臭い言葉だと、
君は思っただろう。
わかってる。誰よりも信じていないのは自分だよ。
なのに信じて欲しいと願ってしまうのはわたしの勝手。
君は愛されるために生まれてきた。
愛しているよ。
君はぼくの太陽だ。
ささやくぼくに、君はらしくない冷めた目を向けたっけ。
会うことが出来なくなって、
いったい何年がった?
それでもその間、わたしは君の事を忘れたことはない。
内緒で様子を見に行ったこともある。
君は笑わなくなっていた。
それでも接触を許されないぼくは、
ひたすら君の幸福を願っていた。
それは本当。信じてくれなくてもいいから、
どうか、疑わないで。
題名:『父子の再会、数分前』
2009年09月02日
コイ。その1-2
恋を自覚してから、
季節が二度移り変わった。
相手に関して、知っていることも増えた。
寮ではなく、特別に自宅通学をしていること、
料理が得意なこと、きれい好きなこと。
運動が出来ることは知っていた。
けれど剣道の段位持ちとは知らなかった。
面倒見がいいこと、みんなに好かれていること、
みんなに平等であること、
絶対に、自分のものにはならないこと。
わかっているのに思ってしまう。
相手の笑顔が自分だけに向けられればいい。
だけれど、自分に向けられるものは、
それだけじゃないことも知っている。
自分だから、相手はしかめ面もすれば、困り顔もする。
呆れ顔もするし、怒り、苦笑も浮かべる。
なによりもかげりのない笑顔をくれる。
それがひどく嬉しい。
たとえ相手が向けてくるそれが恋情でなくても、
そこにあるのは明らかな信頼。
嬉しいけれど苦しい。
相手を、騙しているようで。
自分は自分を偽っているつもりはない。
けれど、相手はその真意を知ることはない。
結局、騙しているのではないか?
そんなことがぐるぐる回る。
隣で笑う自分の頬が、引きつってはいないだろうか。
どうか、気付かないでほしい。
相手を思うことはやめられないから。
自分は相手の傍を離れることはできないから。
題名:『教室の片隅の』
2009年08月27日
コイ。その2
あの人が恋をしていると、
気付いたのは泣いているのを見たときだ。
泣くほどつらい恋。
その姿を見て泣きそうになった。
何故そんなに相手を思うのか。
相手の何を思って泣いているのか。
その場所へ、自分はいけないのか。
ああ、あの人も自分と同じ叶わぬ恋をしている。
泣かないで、泣いてしまう気持ちはわかるけれど。
泣かないで、自分は笑顔のあなたを見ていたい。
自分でもひと時の安らぎになれば。
それがあの人にとってまやかしでしかないとわかってはいても。
自分が泣くよりもつらいことになるとしても。
自分は、思っていた以上にあの人の幸せを願っていたのだ。
題名:『校舎の影で』
2009年08月20日
コイ。
恋は唐突だ。
一目見た瞬間落ちる事もあれば、
今まで意識もしていなかった相手に心奪われることもある。
逆に嫌っていた相手の意外な面を知って、意識しだす事もあるだろう。
この心の移り変わりはなんだろうか。
人の心の移ろいやすさを、このときほど実感したことはなかった。
相手の外見は、実はかなり好みだった。
けれど目が合った瞬間に、気に食わない奴だと思った。
だというのにわずか出会いから数週間。今では、常に目で追っている。
自分が不幸だと浸っているなと切り捨てられた。
暴れたければ暴れろと言われた。
やりたいことがあるなら我慢するなと叱咤された。
自分を自分で否定するなと、手を差し出された。
その瞬間、恋に落ちたのだと思う。
相手の手は暖かかった。
何故こうも簡単に、抱く感情が変わるのだろう。
たった一つの行動、たった一つの言葉。
相手にとって何気ないことであっても、自分にはそうでなかった事もある。
計算のない相手の笑顔に、さらに自分の心は相手の色に染まっていく。
けれど、簡単に心が変わるものなら、
恋が冷めるのも簡単なのかもしれないと、不安に思う。
自分の心を不安に思う。
変わってほしくないから。
不幸だとは思わない。
我慢もしない。
この恋心も否定しない。
だからこそ、自分は相手の対象に見られなくても、
想いを伝えることが出来なくても、
親友として、相手の隣にいることを選ぶ。
題名「土ぼこりの中に」